楓樹詠文字模様小袖

ふうじゅもじもようこそで


時代     江戸時代 18世紀


 

寸法     147.0cm  62.7cm


 

生地・技法  緑綸子地 白上げ・刺繍・描絵


 

 

樹木のもつ生命力と詩歌に詠われた知性を盛り込んだ小袖。爽やかな緑地に鮮やかに刺繍された紅葉の葉が美しい秋の訪れを演出している。胸と背には「黄」「纐」「纈」「林」「有」「寒」「葉」の詠文字が刺繍で散りばめられ立体感を醸し出す。


 

 右裾から大きく屈曲した楓樹の左右に伸びる枝に文字を配した立木模様の小袖。制作当時は振袖であったと思われ、現状よりさらに幹に動きが感じられたことであろう。楓樹は糊置きにより白上がりとし、葉は金糸・紅糸・萌葱糸の刺繍、また一部の葉には朱色の線描きによる葉脈が表されており、それぞれの表現技法がバランスよく配置されている。さらに、紅糸や金糸の刺繍による「黄」「纐」「纈」「林」「有」「寒」「葉」などの文字が華やかさをそえる。なお、この文字は

 

「黄纐纈林寒有葉 碧瑠璃水淨無風」

(黄纐纈の林は寒うして葉あり 碧瑠璃の水は浄うして風なし)

(『和漢朗詠集』巻上 紅葉 白居易)

 

を意味している。この詩句を知る人は、鮮やかな黄色の絞り染の布のように紅葉した林や、モチーフとしては表現されていない紺碧に澄みとおる波もない湖をイメージするであろう。小袖全体に主題となる模様を配し、さらに文字を散らす文芸的内容を示すデザインは、江戸時代中期以降の作品に多く見られ、この小袖はそのなかでも代表的なものの一つである。

( N.O. / K.M. )

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