流水杜若模様振袖

りゅうすいかきつばたもようふりそで


流水杜若模様振袖

 

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時代     江戸時代 19世紀


 

寸法     170.0cm  62.0cm


 

生地・技法  白綸子地 絞り染・友禅染・刺繍


 

 

ダイナミックな流水と写実的な杜若による艶やかな振袖。模様からは『伊勢物語』九段の業平東下りが想起されるが、古典文学を自由な発想で再解釈し、デザインした様子が窺える。紅地に渦巻く流水は身体を螺旋形で取り巻き、少女の初々しさを際立たせたことであろう。


 

 紅と白の大胆な染め分けの中に、清らかな杜若が咲く鮮やかなデザインの振袖。杜若の花は、優れた刺繍技術により、花弁のやわらかさや瑞々しさまでも表現されている。また、リズミカルに並ぶ萌葱色の濃淡の葉には、糸目糊置きにより繊細な葉脈が表されている。紅地に渦巻く流水は、主に一目鹿の子で表され、粒に大小をつけたり二目に並べたりすることによって流れに変化をつけている。この流水は、絞りの粒を並べるという単純な技法を用いながら、写実を意識した表現を獲得しており、水の勢いや音までも感じられるものとなっている。ここに八つ橋は表されていないが、流水に杜若のモチーフから、『伊勢物語』九段の業平東下りをデザインしたことが想起される。この物語は、町方の小袖でも江戸時代を通して比較的多く用いられており、貞享五年(一六八八)刊行の『友禅ひいなかた』にも「八橋かきつばた」の名で掲載されている。この振袖は、鹿の子絞りと友禅染と刺繍の技法の長所を適材適所に使い分け、町方ならではの自由な発想で物語をデザインしたものといえよう。

( N.O. / K.M. )

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