文箱模様小袖

ふばこもようこそで


文箱模様小袖

 

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時代     江戸時代 17世紀


 

寸法     142.5cm  66.7cm


 

生地・技法  白綸子地 絞り染・摺箔・刺繍


 

 

文箱を大胆に配した小袖。寛文小袖の代表作の一つで、江戸時代前期の前衛的な美の精神が反映されている。唐草風の小花をアクセントにした鹿の子絞りの文箱はシンプルなデザインながらも金糸の刺繍が映え、雅な王朝の雰囲気を映し出している。


 

 文箱を右肩中心に大胆に配した小袖。染法は、文箱本体を小粒な鹿の子絞りで埋めている。この一粒一粒は本座鹿の子の特徴を示し、機械的でない手技のあたたかさや優しさが感じられるものである。文箱の模様には、縫い絞りや密度の高い紅糸や金糸の刺繍、さらに摺箔が用いられ華やかさを増す。
 デザインは、上下に置いた大きな文箱を流れるような紐が繋いでいる。この紐は、文箱の蓋を閉める紐と同じものであるが、寛文小袖のデザインとして小袖背面に重要な位置を占めている。この巧みなデザインは見事である。「白地雪輪菊縦縞模様小袖」(当館蔵)の作品と同様、現存する寛文小袖のなかでも屈指の一領であろう。このように背面左腰に大きく余白をとり、モチーフを大柄かつ大胆に配するデザインは、『御ひいなかた』(寛文六年[一六六六]刊行。翌年、一部図様を替えて再版)に同様の特徴ある構成が掲載されていることから、「寛文模様」「寛文小袖」の名称が付いたという。この独特の模様配置については、さまざまな説があるが、いわゆる慶長小袖の抽象的な染め分けが形を整えて、江戸時代前期の文化の清新な時代性を反映したものと考えたい。

( N.O. / K.M. )

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