熨斗草花模様小袖

のしくさばなもようこそで


熨斗草花模様小袖

 

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時代     江戸時代 17世紀


 

寸法     143.7cm  65.0cm


 

生地・技法  白黒綸子染分地 絞り染・刺繍・摺箔


 

 

新しい美への探究心が凝縮された、力強さと繊細さをあわせもつ慶長小袖。黒茶の熨斗模様は、白綸子とのコントラストにより優美なラインを強調する。付随する草花・入れ子菱・花唐草模様などの刺繍は繊細で、細部を堪能する愉しみを演出している。


 

 白と黒とに大きく染め分け、背の中央に抽象的ながら熨斗模様を配した小袖。大きな熨斗模様は、やや動きをもたせた肩裾模様の変形のように縫い絞りにより染め分け、染め分けの線にそうように刺繍で繊細な草花・入れ子菱・花唐草模様を帯状に配する。かつて黒茶地部分には金の縁箔や摺箔が行われていた形跡があり、華やかな小袖であった頃が偲ばれる。また白地部分にも、この染め分けにそうように松や草花、簑亀などが刺繍で表されている。これらの刺繍は、大きく染められた曲線や直線にそうように配され、それぞれの境界線を越えることがない。大胆で抽象的な染め分けに繊細な刺繍表現が対照的である。
 この小袖のデザインは、桃山時代の肩裾模様などのように、一定区画内を模様で充填する名残りをとどめつつ、区画が抽象化する慶長小袖(「染分地桜花に松鶴模様小袖」重要文化財)の染め分けがいくらか整理され、右袖から円弧を描いて左腰へ向かう曲線の動きがより重要な要素としてとらえられたものであると思われる。慶長小袖から寛文小袖への過渡的な様相を示し、あらたな近世の小袖デザインの様式へと変容しようとする力強さがみなぎる一領である。

( N.O. / K.M. )

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