宝尽模様腰巻

たからづくしもようこしまき


宝尽模様腰巻

 

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時代     江戸時代 19世紀


 

寸法     157.2cm  62.4cm


 

生地・技法  黒練緯地 刺繍


 

 

武家女性の夏の正装に用いられる腰巻。帷子を着て附帯を結び、芯入り帯に袖を通して着装する。精緻に表された宝袋・丁子・宝鍵・隠れ蓑・隠れ笠・宝珠・菱・分銅・打出の小槌・松皮菱などの吉祥文様の総刺繍から、武家の品格が窺える。


 

 黒に近い藍色の経糸と黒茶に見える緯糸で織られた練緯地を、宝尽し模様で埋め尽くした江戸時代後期の典型的なデザインの腰巻。紅色の裏裂も練緯で、袷仕立となっている。腰巻は、武家女性の夏の正装として裾を引いて着装するが、帷子を着て附帯を結び、帯の両端に芯を入れて左右に張り出させたものに腰巻の袖を通す。この腰巻の襟裏には、紅裏と共裂で左右各二本の平くけの紐が綴じてあり、『南紀徳川史』大奥御服図、御腰巻の項に「夏辻を召させられ五節句御服の簾に御附帯の上へかけさせらる前襟に紐ありて御帯へくゝる」と記されているように、この紐を帯へ結びつけたのであろう。同書には、地色に黒紅・嘉珍色などの名称が見られ、黒地に吉祥文様の総刺繍または摺箔を加えることもあると記されている。
 この腰巻は、宝袋、丁子、宝鍵、隠れ蓑、隠れ笠、宝珠、菱、分銅、打出の小槌、松皮菱などの吉祥文様を、紅・白・萌黄・淡萌黄・水浅葱・黒・金茶などの色糸と金糸の刺繍で表し、宝袋の人物に撚り糸が見られる。繍法は、平繍を中心に割付繍、駒繍、駒詰繍が用いられ、さらに紙縒りを芯にして金糸を表面に留めつけるオランダ繍も見られる。幅四センチほどの宝袋には、七宝、麻の葉、鹿の子、菱などの精緻で多彩な幾何文のほかに、病気の母親のために雪の竹林に筍を探す二十四孝の孟宗、浜辺で網を引く人、蹴鞠をする人、桜堤に筏流しの船頭、大原女などが表され、さまざまな階層の生き生きとした人物像の表現が注目される。また、潮汲みの桶、帆掛け舟と松原、青海波に珊瑚、藤に菊、菊に蝶、松竹梅、梅に鶯、富士に雁などの風物が、極小の空間に糸で描かれている。この中には、幼い鹿の背中の斑点が名称の由来である鹿の子文様に鹿をあしらう機智的なデザインも含まれ、形式を重んじる腰巻として類型的なデザインでありながら、吉祥を願う心に控えめなユーモアが垣間見える一領である。

( N.O. / K.M. )

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