八橋流水模様単衣

やつはしりゅうすいもようひとえ


八橋流水沢様単衣

 

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時代     江戸時代 18世紀


 

寸法     156.8cm  58.5cm


 

生地・技法  白縮緬地 摺匹田・刺繍・引き染


 

 

過酷な夏を心地よく過ごそうとする日本人の知恵が創出した夏の単衣。大胆なデザイン構成は寛文小袖を想起させるものの、模様は比較的平明で、大柄な沢瀉が八橋のたもとで咲き乱れている。沢瀉は清流に咲く植物で、暑い夏に白地の揚柳とともに清涼感を演出している。


 

 川にかかる八つ橋に沢瀉がそうように並んだ単衣。川を波紋風にデザインして、ゆるやかに流れる水を表し、その場の静寂な空気までも描きこまれている。八つ橋には杜若といいたいところだが、沢瀉は水草とともにきれいな水辺のみにしか生息できず、清浄を意味するモチーフとして、まさに桃源郷的な美しい風景を表現しているのであろう。染法は、橋の板と沢瀉の葉のそれぞれは、比較的粒の大きい鹿の子絞り、橋の脚と沢瀉の茎・花は金糸と紅糸の刺繍、そして流水は絞り染で表している。これらの鹿の子絞りと縫い絞りは、絞った後に形を整えるために絵ぎわになおしを加えている。これは明瞭に絞ってありながら、模様としての鹿の子の整然さと引き染めの平明さをめざそうとして行われたものと思われる。それが簡略化したデザインを一層際立たせている。このことから、寛文小袖に施された立体感ある絞り染と刺繍を中心とする小袖模様とは印象が異なり、当時の人々の好みが平明でかろやかな染法や質感へと変化してゆく過程が想像される。したがってその制作年代も、図様は比較的大柄で動的ながら江戸時代中期前半頃の作と考えたい。

( N.O. / K.M. )

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