近江八景模様小袖

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近江八景模様小袖

 

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時代     江戸時代 18世紀


 

寸法     147.3cm  58.5cm


 

生地・技法  白縮緬地 友禅染・ 刺繍


 

 

「近江八景」を表した小袖。観光ブームが到来したこの頃には、完成された友禅染の技法により細密描写が可能になった。トレンディな名所図会を着込むという斬新な発想には驚くばかりである。しかし、現実とは遠く離れた都会人の心象風景、浮世の世界のようでもある。


 

 一幅の掛軸を思わせる近江八景模様の小袖。背肩に紫の霞がたなびき、腰から下は浅葱に染め分け琵琶湖周辺の有名な八景を配した腰替わり風の構成で、小袖幕のように飾っても、人がまとっても美しいだろう。
八景の模様配置は、背面上部中央に石山寺の伽藍があり「石山の秋月」(月は雲の中である)、腰付近に大きく浮御堂があり「堅田の落雁」、そして右裾近くの帆掛け舟は「矢橋の帰帆」、左脇付近の雪持ち松は「比良の暮雪」、上前の雨と唐崎明神と松は「唐崎の夜雨」、裾にかかる大橋は「瀬田の夕照」である。また、前面襟付近の鐘楼は「三井の晩鐘」、下前腰付近の城壁は膳所城で「粟津の晴嵐」が表されている。
 このような風景模様の小袖のデザインは、徳川幕府開幕以来の天下太平の世の産物といえる。江戸時代中期以降、出版機構の発達にともない名所図絵や一種の旅行案内本の刊行により、町方ではお伊勢詣りや富士講に代表されるように観光ブームがおこる。さらに友禅染の技法の完成により、水を得た魚のごとく、糸目糊・色挿しを駆使して、これらの出版物を参考に小袖に多彩な名所図のデザインが華やかにくり広げられる。この小袖は、「染分地京名所模様小袖」(国立歴史民俗博物館蔵)とともにその代表作である。

( N.O. / K.M. )

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