タイトル「障害理解とアートフィールド参画支援の取組」

絵本や紙芝居を作り発表する


担当者名:
佐藤守(絵画・教員)

活動日時:
2009年~

参加者について:
短期大学部学生 12人

活動の目的:
障がい者の方と発想・展開・作画等の作業へのアドバイスと補助を学生が行いながら、絵本や紙芝居を制作します。
絵本や紙芝居は絵とストーリーとで出来ています。絵本は最終的に1冊の綴じあげます。個人の能力に応じて紙芝居や折本にも展開可能とします。

また、紙芝居は作る作業に演じるが加わります。
絵本や折本が対個人なのに対して、作者と複数の観客の関係が生じます。
自分で制作したものを自分で演じるので、嬉しさもひとしおです。

解説 :
物語性のある絵本を制作し、絵を描くというその過程の喜びをともに共有しながら、最後にはお互いの絵本の読み聞かせをも想定した計画ではあったが、作業所に通われている方々の障がいの度合いが分からず、無謀なプランを立てたところからこのプロジェクト計画は始まった。
しかし、今回ともに活動を行う作業所の方の一人一人あまりにも違う個性に、授業的なやり方では結果が出てこないということがはじめの打合せで確認された。そのなかから彼女、彼らの一人一人の個性にあった方法を探ることになり、紙芝居という、枚数も物語もある程度の自由性を持った媒体を使うことで、お互いのストレスを回避することができた。
物語は「作業所の一日」ということになった。このテーマは自分に一番近い生活をともにしている仲間との時間を大事にすることで、「今、ここに生きている」という実感を得てほしいとの思いからである。自分達の想いはバラバラかもしれないが、その一つ一つを結ぶことで連帯感が感じられることが重要で、つながっていくことが実感としてそれぞれの心に届いてくれればと思っている。


特徴:
紙芝居というと、昔話を思い浮かべることが多いと思うが、まず自分達が話の中に入ることで、紙芝居の面白さや話題の共有化からコミュニケーションが生まれてくる。今までの既成概念を取り去ったところに、確かな存在としての紙芝居がみえてくると確信した。


活動の場所:
杉並校舎 4号館を主とする 黒板・水道・机など必要。

活動内容:
紙芝居を作る
ストーリーにしたがい、絵を描く。
台詞を入れ(1枚ずれた絵の裏に入る)、完成する。
発表のための練習を繰返す(抜き方や抜くタイミングなど)。
発表。
もちろん能力差が、一番のネックとなりますが、絵を3〜4枚(通常12〜15枚)。
ポイントは、少ない絵の場合、展開の面白さにあります。それを見つけ指導するのが女子美サイドの仕事となります。

折本を作る
折本は紙を蛇腹折りしたものに表紙をつけるだけ、と考えれば、巻き物のように紙質や仕上げの作業が不要なので、比較的簡単な作業で1册にまとめる事が可能です(絵本などと同様に話の流れや長い物の絵なども可能)。
ストーリーを考え、絵を展開し、しかもコンパクトに1冊の作品にまとまるところに作り手の喜びがある創作活動です。

作業
ストーリーを作る。
絵を描き、文字入れをする。
製本する。
ですが、能力に応じて、ストーリーは他者の作品を拝借する。日記や物の写生などで図鑑風に仕上げる。また、作業を逆にして出来た白いノートに描く事も可能です。作業の時間や能力に応じ対応を考えるのがひとつのポイントです。


目的達成 :
個々の違う個性を大きく取り込んだ今回の紙芝居のストーリーは、実際に作業所での仕事であったり、楽しみにしている お茶タイムであったり、機織りの楽しさや、お弁当時間であったり、近くの公園の清掃であったりと自分のお気に入りの場面を思い浮かべることから始まった。
その考えている時間が大変に重要で、唯一個人の考えを聞くことができる時間でもある。コミュニケーション成立の瞬間であった。

満足度:
紙芝居は物語とその言葉を表現した絵で成り立っている。一人一人の物語に対する個々の思い入れは、こだわりというより
は楽しく物語を次々と生み出しているようにも見える。
作成しているときも楽しんでいたが、いざ、紙芝居の箱に入れ、物語が始まるとお互い顔の見えている仲間の絵に、笑顔と良い会話が生まれ、会場内があたたかな雰囲気につつまれていた。本人達の満足度は本学としても想像をこえた達成感があった。

今後の発展:
紙芝居」の取組は2枚でも3枚でも始められるし、物語が長くなっても可能であり、年齢を超えてできると確信してい
る。その場に集まった人の輪の中でも、即席でできるものである。
コミュニケーションの手段としての役割が大きいことから、対象範囲を広げていくことができ、地域活性化の役割も担うことができる。現に、杉並地域での話し合いの中で、地域活性化を図るために紙芝居を利用したいとの話があった。身近なところからの? 身近 の生活からのテーマの提案は思いもつか なかったようで、年齢をしぼったり、拡げた り、時、場所を選ばずにコミュニケーション ができることで、自由度が高いことがこの特徴と言える。


学生が得られた成果:
自分が指導(アドバイス)した作品を通して、自分の作品への思い入れや長所・短所などを「傍目八目」的に見る事ができるようになり、冷静な第三者的自己評価力が芽生える事を期待したい。
障がい者への理解が深まり、個人的につながりができ、作品の完成に対しての喜びを共有できた。

今後の課題、計画、可能性など:
受講生の能力にもよるが1対1が望ましく、会話や臨機応変的対応が必要なので、事前に学生は各自の作品を仕上げておき流れや作業方法を理解しておく事が重要となり、その為の演習時間が必要である。

   
  作品の制作風景 完成した作品 紙芝居発表の様子