制作の記録[2006年]

横浜市立大学附属病院 7階小児病棟処置室ヒーリング・アートプロジェクト

2005年4月〜2006年3月 
デジタルプリントグラフィックスを使ったヒーリング・アートによる空間演出
横浜市立大学附属病院 神奈川県横浜市金沢区福浦3−9

プロジェクトの概要

2005年4月、横浜市立大学附属病院(神奈川県横浜市金沢区福浦3−9)から、7階小児病棟の処置室全体をトータルコーディネイトするためのヒーリング・アートの制作依頼を受けた。処置室は入院している小児患者にとって、処置や採血をする、とても怖いと感じる場所であり、そうした小児患者の精神的な不安感を少しでも取り除けるような温かみのある空間へとヒーリング・アートの施工による演出で変えていきたいというコンセプトでプロジェクトを進行させた。作品制作は、芸術学部絵画学科(日本画専攻)の学生が行った。

部屋全体は約15uほどの広さであるが、そこに2歳くらいまでの小児の体を洗う沐浴スペースと、小児患者に処置を施すスペースがある。小児患者の動線と視線の動きを探り、床面、処置や沐浴の際に視線が向けられる天井、周囲の壁、窓ガラスなど、空間全体が一つにつながるような演出を考えていくことにした。B3〜B2サイズのイラストボードにアクリル絵具で手描きした作品をスキャニングしてデータ化し、計測して作図した図面のデータに貼り込んで画面構成を検討した。決定した作品を原寸サイズに拡大して室内施工専用のデジタルシートに出力、専門業者の施工によって2006年3月11日作業が完了した。

新たなる空間演出の提案 ―処置室のイメージを変えるためにー

小児病棟の処置室をアートによる環境改善の依頼を受け、最初に考慮したことは、処置室が小児の入院患者にとってどういった場所であるのか、そこにどうアートが関わっていく必要があるのかという事である。小児患者の気持ちを考えながら空間を捉え、そこに何が必要かを検討した。処置室の現場に行き、沐浴と処置台それぞれの動線をたどり、小児患者の視線が向けられる方向を確認した。その結果、周囲の壁、床、天井、窓がアートによって一体化し、そこに動物が主人公となって登場しストーリー性のある世界を表現することにした。テーマは「リスとペンギンの冒険」として、飛行艇(潜水艇)に乗ったリスと、ペンギンを主人公にして、海中と宇宙を冒険するイメージの画面構成を考えた。今回、壁面は粘着シート全面貼り、天井と床は動物と星、動物の足跡の輪郭にそってカッティングした粘着シートを使い、窓ガラスには透明シートに出力した水とペンギンを施工した。

看護師による処置室のアートをめぐるエピソード記述の報告

処置室にアートを施工した後、小児患者にどの様な反応があったか、また処置を行う際、どのような会話が生まれたかなどのエピソードについて、次のような事例が報告されている。

  1. 採血をする場面で処置室へ入って、看護師が「熊さんの足跡があるから、ついてきて」と言うと、足跡をみて処置台まで誘導できた。(3歳 女児)
  2. 創部の縫合をしている時に、天井にある絵をみせてあやした。(1歳 男児)
  3. 採血時、泣いている時に天井に描かれているリスを教えたら、じっと見ていた。仰向けだったので、天井の絵が見易かったようだ。(4歳 女児)
  4. 採血時、泣いてしまいそうな患児にイラストを指さしたら、イラストに集中し泣かずに採血できた。(5歳 男児)


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