大学院生プロジェクト参加報告 「ヒーリング・アートのデジタル技術開発の可能性」
大学院美術研究科修士課程デザイン専攻ヒーリング造形1年
茨城県立こども病院のX線室TV透視室のヒーリングアートプロジェクトに参加させていただきました。
茨城県立こども病院には、ヒーリング・アートが施された「海」「森」の検査室が既にあり、それに合わせて「空・宇宙」というテーマにしました。[註1]子供達が宇宙ロケットに乗って、動物達と一緒に宇宙を冒険する。
そのストーリーの元、宇宙の世界を楽しんでいる動物達をおもいおもいに描き、他の検査室と同様に、色鉛筆・パステルを使って原画の雰囲気を統一させながら、制作しました。
宇宙というテーマですが、色鉛筆の持つ自然な暖かみのある塗りが、明るく優しい印象の宇宙空間を作れたのではないかと思います。
実際の作業の中で大変だったのは、原画制作を終えて印刷をするまでの、データ作業でした。原画をパソコンに取り込み、絵のデータを図面へと配置する作業が、壁面同士の絵のつながりや、サイズの調整などを考えていく為、多くの時間を必要としました。
また、データを業者の方に送る上で、データの不具合など、予期しない出来事もあり、大変な部分もありました。
今回のプロジェクトは少人数での作業でした。しかし、それにより一人ひとりの力が必要不可欠である為、より協力しながら乗り越えてゆけました。
また、プロジェクト参加者だけでなく、多くの人達に支えられ、助けられました。
施工日当日では、実際の空間を見た上で絵を合わせていくと、配置図では気づかなかった距離感などが分かり、いくつか変更になった部分もありました。
その点が非常に学べた部分でもあり、空間に絵を生かすという事の面白さでもありました。
特に、空間を生かすことによって生まれる新たな絵の展開や、ストーリーが生まれる所は、自身が描いた絵に無限の可能性があるのだと実感するとともに、絵を見て嬉しさと達成感を感じました。
そうして作られた、冒険の世界を子供達が見て、少しでも検査の辛さや苦しさを忘れ、絵の世界を楽しんでもらえたら、そして治療を頑張ろうという気持ちが生まれてくれたらと、自分の絵が少しでも役に立てられる事をとても嬉しく思っています。
今回のプロジェクトを通して得られた経験や、ヒーリング・アートに込められた想い、それらを常に持って、これからも作品を制作していきたいと思っています。
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〔註1〕茨城県立こども病院において、2007年2月にCTスキャナ検査室、2008年3月には心臓カテーテル検査室にデジタルプリントシートを用いてヒーリング・アートを施工した。
大学院美術研究科修士課程デザイン専攻ヒーリング造形1年
今回のプロジェクトは、自分たちだけではなく病院側とも何度も話し合いを重ねて施工を行う作業を初めて経験し、そのプロセスの中でたくさんの“宝”を得たと思う。それらは反省点も含んだ意味を持ち、制作中から既に得られ癒されていることを私は実感していた。なかでも、施工の段階で得たものが一番大きかった。
デザインを考えるのというのは、レイアウトなど紙の上からパソコンの画面で行うものが大部分だと思っていたが、いざ施工でその空間に立った時たくさんの問題が起き、大きさや位置をそれこそゼロからもう一度構成しなおさなければならず、その絵がその場所に必要でなければなくしてしまうことも空間づくりの大切なポイントであることと同時に、新たに必要な絵もそこで見えてくる場合もあることを知った。
しかし、このことをもう少し遠くの視点で見てみると、私たちがその空間に立ち入るだけでその空間にプラスされてしまっていることにも気がついた。つまり、ある空間にまったくそれとは違う性質を持った椅子が、ひとつ配置されただけでその空間の意味を大きく変えてしまうのだ。このことは、空間という誰かにとって大切な切り取られた場所を、他者が入り込むには大きな責任があるのではないかという考えに結びつく。そう考えていくと、空間にモノを置く、もしくは飾るという行為は、注意すべき点が紙の上でデザインを考え始める以前にあったということになる。
プロセスの中にこそ大切な宝が転がっていることを、身を持って体感できた経験になり、今後の自分の作品づくりにとって大きな発見となった。この発見をこれからさまざまなところで考え、活かしていきたい。
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大学院美術研究科修士課程デザイン専攻ヒーリング造形1年
今回、茨城県立こども病院でのプロジェクトを行った工程では、病院側との打ち合わせから始まり、デザイン案の了承を得て、業者への入稿までが短い期間ながら段階を踏み、とても大変でした。ヒーリング・アートプロジェクトの参加は初めてだったのですが、ただ絵を描くということだけではなく、描いた絵をスキャナーに取り込み、ホコリを取り、輪郭をパスで切り取り、業者に入稿できたかと思えばミスがあってやり直し・・・苦難の連続でした。病院でのデジタルシート配置作業では配置図通りではなく、実際にそのX線TV透視室の空間に必要ではないと判断し、大きさを変え、位置を変え、どのようにしたら心地の良い空間ができるのかと錯誤しましたが、先生方、先輩方のアドバイスもあり結果的にバランスのとれた空間が出来上がりました。
パステルと色鉛筆を使った柔らかいタッチと、動物の愛らしさ、宇宙のダイナミックさを全面に押し出せた、以前の冷たい雰囲気とは180°違う温かな雰囲気に感動しました。惑星の色鉛筆のタッチがデジタルシートになると荒くみえてしまうのではないかと心配しましたが、返ってそれがいい味をだせたのではないかと思います。
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大学院美術研究科修士課程デザイン専攻ヒーリング造形2年
私が茨城県立こども病院でのヒーリング・アートプロジェクトに参加したのは去年に続き2回目だったが、今回施工した部屋を初めて見た感想は、前回施工した部屋に比べ狭く機材等が部屋の半分を占めていることもあり、入口を入ってすぐの面を除き障害物が多く壁一面を大きく使うのが難しい部屋だなというものだった。しかし部屋の構造や用途の違いはあれ、小児患者が検査室にいる時の恐怖感が少しでも和らぐようにというヒーリング・アートの制作の目的に変わりはなく、前回の経験を生かし子ども達の心の癒しを第一に考え制作を行った。
今回、全体の構図を考える前に、「宇宙」というテーマを決めそのテーマに沿い宇宙旅行をしている動物達を描くという事だけを先に決め原画制作に取り掛かった。そしてある程度描いた所でそれらを図面上に配置して行くという工程を取った。その結果、障害物が多く壁一面を大きく使うのが難しい部屋での、絵の配置場所の決定に役立った。それぞれの絵をA3の図面上でおおまかに配置したのだが、現場に行き見え方の確認を行うと機材等との兼ね合いや絵が大き過ぎて圧迫感を与えないか、反対に小さく寂しく感じないかなど調整しなければならない所が多く出てきた。その際に、おおまかにしか決めていなかったため、配置場所の変更を容易に行なうことが出来た。また、原画をデジタルデータにしたものを使用したので、サイズ調整や複製も簡単に行えた。そして最終的にデジタルプリントシートへの出力を業者に依頼し施工したのだが、パーツごとにシートを制作してもらったため、施工時にも貼る場所の調整を行うことが出来た。そういった様々な調整を行なえたことにより、より良い空間が出来上がったのではないだろうか。
女子美術大学が行うヒーリング・アートプロジェクトでは様々な手法が用いられているが、その中で今回用いたデジタルプリントシートによるヒーリング・アートの設置は、パネルに描いた絵のように厚みのあるものを飾ることが難しい今回のような医療現場にも手描きの暖かみのある絵を設置できるすばらしい手法であると改めて感じた。そして同じテーマで描いた絵のデジタルプリントシートを部屋に設置することで部屋全体の一体感を生むことも出来たと考えている。そんな一体感のある部屋で、子どもたちが宇宙旅行の気分を少しでも味わってくれたら嬉しい。何よりも、子どもたちが健康を回復する一助になればと思っている。
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