ヒーリング・アート〈healing art〉 ― 癒しの芸術 ―

現代日本の社会では、家庭での日常生活、学校生活、職場等での社会生活の中で受ける様々な精神的ストレスが問題化されている。それと同時に、最近癒しと言う言葉がごく一般的に使われているが、心の癒しの効果を考えた環境を整えていこうとした場合、ヒーリング・アート(Healing Art)が注目されて来ている。

ヒーリング・アートとは、「爽やかな気分になって、心が落ち着く効果を目的とした芸術」を意味し、それは、絵画、彫刻、オブジェ、映像、インタラクティブ・アート、音楽など様々な芸術分野での表現手段が考えられる。また、ヒーリング・アートは環境芸術としての役割を果たす場合がある。建築プラン、インテリア・コーディネイト、カラー・コーディネイトなどとも関わりながら、環境計画の一部としてアートを考え、空間をどう演出して利用者の気持ちが和らぐ効果(ヒーリング効果)を作り出せるかという点を検討し、アートを設置することが基本になる。こうした際、現場の状況に応じた癒される空間作りを目的として、それに適応したアートの制作と設置を検討するのである。したがって利用者という不特定多数の人間にとって、その空間がどうあるべきかを考えてアメニティー(amenity)を高めるためのアートを制作する点が重要となる。空間全体に配慮しながら設置するアートの素材、表現、大きさ、設置場所などを考えていかなければならない。

日常生活のみならず、病院などの医療空間や福祉施設においても、アメニティーを考えた環境づくりの一環として、ヒーリング・アートの設置は大切な要素になる。病院では、白く冷たいイメージがつきまとい、それが患者にとっての大きなストレスの要因となっていると言われている。精神の安静とストレスの緩和を演出する環境づくりに焦点を当ててみると、そこにはアートの存在が必要不可欠なものであると考えている。

女子美術大学で取組んでいるヒーリング・アートプロジェクトは、ヒーリング(癒し)という観点から病院や福祉施設の空間にアートやデザインが関わることで、環境改善の要素に役立てたいというコンセプトに基づき計画したプロジェクトである。アートやデザインを施すことによって少しでも利用者にとって心が安らぐ環境作りに役立て、またその改善を図ることを目的としてヒーリング・アートの作品制作とコーディネイトを実践している。