デジタル技術によるヒーリング・アートの表現の広がり

医療・福祉空間におけるアートの可能性を広げるデジタルプリントグラフィックス

患者の視点から医療空間を探ってみると、アートが必要な箇所は必ずしも白い壁だけとは限らない。

検査室や、点滴処置室、人口透析室などの様に、天井を見つめながら患者が不安な気持ちで時間を過ごしている場所もある。幼い小児患者にとっては、床面が眼に入るところであるし、小さく仕切った外来の閉鎖的で狭隘な中待合はスチール製のパーテーションが使われている場合が多く、こうした材質は白壁のように金具を打って絵を掛けるという訳にはいかない。そこで最近本学では、このような箇所にアートが設置出来ないかと考え、商業スペースのガラス面や床、金属壁などに施工されているグラフィックプリントシートや路線バス、電車の車体表面に広告用に貼られているデジタルプリントシートをヒーリング・アートに活用して癒される空間づくりを試みている。

これはコンピュータグラフィックで描いた作品や写真ではなく、手描きのぬくもりを伝えるため、絵具やパステル、色鉛筆などによって描いたオリジナル作品をスキャニングして拡大したものを、業者に依頼して専用のシートにプリントアウト、施工するというものである。

この手法によって医療空間の床、天井、ガラス面、スチール壁などの、あらゆる条件の場所にアートを施工することが出来る。

社会のさまざまな表現媒体の広がりに対応させ、ヒーリング・アートプロジェクトにおける表現方法についてもアナログ表現と合わせて、デジタル媒体、デジタル表現素材を使った新たな表現の可能性を探求している。