今回の展示
2026年1月14日(水)〜3月14日(土)
作品点数:5点
世界のさまざまな地域の染織品には、建築物をモチーフとするデザインがみられます。
例えば、建築物のモチーフは、信仰観や価値観を表すシンボルになります。イスラム教の文化圏には、「ミフラーブ」というアーチの模様を表した壁掛けがあります。これは、モスクの中において、祈りを捧げるメッカの方角を示すものです。
インドネシアのスラウェシ島では、「トンコナン」という伝統的な建物を絣織(かすりおり)で表現しています。トンコナンは、当地において、生活の場であるとともに、祈りを捧げる場でもあります。
一方、日本の江戸時代の小袖を飾る文様には、「名所模様」として街並みや社寺の建物が表現されています。
ヨーロッパの染織品、特に18世紀以降の布地の中にも、城や庭園、あるいは遺跡や廃墟などのモチーフがしばしば登場します。繰り返されるパターンとしてデザインされているものもありますが、風景絵画のような空間性をもつ柄もあります。
これらはそれぞれの文化における絵画の中で形成された「風景」が、織物や染物、刺繍の技法を通して、布の文様に落とし込まれたものだと考えられます。
中国の織物「緙絲(こくし)」は、綴織(つづれおり)の一種であり、宋時代以降、衣服や家具などの「模様」ではなく、鑑賞を目的とした美術品としての性格が強まりました。花鳥図や人物図など、名画を下絵として作られたものも多く、山水もまたそうしたテーマのひとつでした。そうした絵柄の中で塔や家屋は、自然の中で暮らすことの豊かさを物語っているようです。
なぜ筆ではなく糸を染め、織り、刺繍することで「絵を描く」のでしょうか。この疑問の向こうには、先史時代以来、人間の手がより高度に、より繊細に染織の技法を高めていったことへの答えが隠されているようにも思えます。
過去の展示