参加学生の感想・自己評価[2007年]

センペル逗子クリニック 人工透析室ヒーリング・アートプロジェクトより
 
大学 絵画学科日本画専攻1年 学生

人を癒す美術って何だろう。
入学前、女子美術大学にヒーリング・アートプロジェクトという活動があることを知った時、単純にこの様な疑問を持ち、入学したらぜひ参加したいと思いました。当時の私は、美術とは、個人の心の世界をどう表に出し、他人に認めてもらうか、あるいは自己表現をするためのもの、としか考えておらず、”人のために“とか、”相手の気持ちを考えて“などという言葉は、私の中の美術という定義の中にはありませんでした。なので、とても興味が湧き、あまり深く考えず軽い気持ちで参加してしまいました。

しかし、実際に参加してみると、大変な事の連続でした。私は、病院の人工透析室を担当したのですが、この場所にふさわしくないモチーフ、例えば血を連想させるものや、死を連想させるモチーフはもちろんダメ。まさに相手の気持ちを考えることからのスタートでした。
どうしたら患者さんの人工透析というつらい退屈な時間に癒しを提供できるのか?皆で話し合った結果、生命力を感じさせる「森林」をテーマにそれぞれエリアごとに作品を作り上げていくことに決まりました。一つのテーマに絞った以上、独りよがりは許されません。私は、メインエリアの大樹を担当しましたが、他のエリアとの調和や統一感など、普段日本画に所属し、個人作業の中では考える機会のない壁にぶつかり、悩んでしまいました。しかし、皆で話し合っていくうちにどんどんアイデアが出され、生命感のあるどっしりとした大樹が出来上がりました。この時私自身、ヒーリング・アートプロジェクトという共同作業をする場においてもなお、普段の“1人でどうにか・・・”という個人作業の域を抜けていなかったことに気付きました。人のために何かをするには、1人では何も出来ません。だから、このプロジェクトには様々な専攻の学生が、各自の技術を活かして指摘し合い、協力して作業をすることが不可欠なのだと感じました。

最初は軽い気持ちでこのプロジェクトに参加しましたが、作業が進むにつれて真剣になっていく自分に気付きました。自分達の手掛けた作品が、もしかしたら誰かの心を癒しているかもしれない、そう思うだけでとてもやりがいを感じます。また、普段出会うことのない人達と協力し合えてとても勉強になりましたし、何より一つの作品を皆で作り上げるという貴重な経験も出来ました。“誰かのために” ”相手の気持ちを考えて“行うこのヒーリング・アートプロジェクトは素晴らしい活動だと思います。大変でしたが充実した夏になりました。(制作の記録はこちら

 
短期大学 デザインコース 空間インターフェイス1年 学生

『自ら感じるということ』

ヒーリン・グアートは自分の得意分野を活かして社会に貢献できるというところに魅力を感じていたので、入学前から参加しようと考えていました。そして実際に逗子の病院へ見学に行った時リハビリなどに励む一生懸命な患者さん達を目の前にし、私の祖父の姿と重なりました。私の祖父も偶然にも逗子の施設で過ごした時期がありましたが、まだ北海道に住んでいた私は一度もお見舞いに行くことが出来ず少々悔やんでいました。祖父は孫が遊びに来てくれることを待っていたかもしれない、ここにいる患者さんの中にも同じ思いの方がいるかもしれないと思い、少しでも寂しさを和らげる為に私にも何かできるはずと考え、参加することを決意しました。また医院長先生から人工透析に関してや患者さんたちの状況など詳しく教えていただきました。人工透析という初めて聞く言葉でしたが、週3回一日4時間受けるという過酷な状況に衝撃を受けました。医院長先生が人口透析室は「命の源」とおっしゃった通り、とても重要な空間だということを感じ取ることができました。

そして原画を考える際、理屈や一般論、先入観で描いてしまってはいけないと思い、医院長先生の勧めで鎌倉から逗子にかけての海岸が見渡せる公園に行った時も、テーマが「海」と決まってすぐに水族館へ向かった時も、何に心地よさを感じ、何に不安を感じるか自分の体で感じることに努めました。杉並チームが担当したエリアは窓が大きく比較的明るかったことなど常に全体像を想像するようにも気をつけました。患者さんの目線を確認出来るよう何度もベッドに横たわりました。活動の中では、原画がなかなか決まらず何度も提案したり、戸惑うこともありましたが、先生や先輩を尊ぶ気持ち、患者さんの気持ちを沢山考え少しだけ分かったこと、個々の得意とするもので互いにフォローし支え合うことなど得るものや大切に思うことがたくさんありました。ヒーリング・アートとは施設を利用する人だけでなく、制作する本人も体で感じるものでなくてはならないと思います。(制作の記録はこちら

 
松本歯科大学病院ヒーリング・アートプロジェクトより
 
大学 デザイン学科2年 学生
  1. 松本歯科大学病院ヒーリング・アートプロジェクト参加の動機
    去年友達がヒーリング・アートに参加しており、その作品を見て自分も来年は参加してみようと思った。また、このプロジェクトが実践であり、自分の絵が社会で実際に使われるという点についても非常に興味を持った。

  2. グループによる原画検討会で感じたこと、考えたことなど
    ここで出来る原画が全ての基盤となるだけあり、案がまとまるのに時間が掛かった。今思えばここの作業が一番大変だったように思う。童話だったり、動物だったりと色々な意見が出たが、決定案の原画は一人の人が描いたので正直その時は『その人の作品』になってしまうのではないかと思っていた。しかし、実際に制作していく内に、それぞれの作品に作者らしさが出てきて、最終的にはちゃんと『皆の合作』が出来上がったので良かったと思う。

  3. 本制作で感じたこと、考えたことなど
    それぞれの個性をまとめる為に、技法を統一したのはとても良い方法だと思った。素材となる紙を自分で作るところから始めるのも楽しかったし、好きなように紙一面に色をのせていく作業は、バラつきが出るようでいて、自分の傾向が出るのが面白かった。他の人の素材を見ると、自分とは全然違う色や模様であることに気付くのである。奇抜な模様や色を組み合せて造る作品は、自分でも上手く想像して造れないので、計算してない良さも出たと思う。貼り絵の作業自体が新鮮で、自分の担当した動物が出来上がるのも嬉しかったが、皆の作品が一つになった完成版を見るとその思いは倍になった。今回は、動物をモチーフにしたこと、そしてカラフルな紙を使うことで、楽しさや癒しを上手く表現出来たのではないだろうか。

  4. 作品設置前の病院見学会で感じたこと、考えたことなど
    設置前の病院見学会は行くことが出来なかったが、作品設置前に見た壁は、新しくて綺麗なものの、白くて少し冷たい、そして大人っぽい印象を受けた。

  5. 病院に作品を設置して感じたこと、考えたことなど
    とても賑やかになったと思った。プレイスペースも、歯磨きルームも、ドアも動物で溢れており、動物達が楽しそうにしているのを見るとこっちも自然とニコニコしてしまう。設置前の、冷たくてツンとした雰囲気がガラリと変わってしまったその差を目の当たりにして、ここで自分達のやってきたヒーリング・アートの意味が初めてちゃんと分かった気がした。自画自賛になるかもしれないが、子供の時自分の通っていた歯医者さんや病院にこんな絵があったなら、こんなに嫌なイメージばかり持たなかったのに、と言うのが一番強く思ったことだ。「ここに通う患者さんはいいなぁ、自分たちも通いたい!」と、一緒に参加した友達と話した程である。

  6. ヒーリング・アートプロジェクトに参加して感じたこと、考えたことなど
    最初、プロジェクトの参加動機には正直、病院を明るくしたいというような考えはあまりなかった。しかし作品が設置され、病院が明るくなったのを感じた時、本当にこのプロジェクトに参加して良かったと思った。何を隠そう私は病院が大嫌いで、病院に対しては嫌な思い出と、とにかく怖いという感情しか持っていない。それは実際に痛い思いをしたとか、そういうものの他に、薄暗く冷たい印象が嫌なイメージに拍車を掛けていたに違いないのである。だがもし、こんな動物の沢山描かれた病院に行っていたならどうだっただろう。これからこの病院に通う子供達、あるいは大人でさえ、ここに来ることで癒されるのではないだろうか。そもそも病院は『病気を治す良い所』なのであるから、もっと良いイメージを持ってもいいのではないかというのは最近思い始めたことだが、それにはこのようなプロジェクトが必要であり、また、私たちの力(アート)でそうすることが出来るのだと実感した。どうかこの病院に通う患者さんたちが、私達の絵で少しでも笑顔になれますように。
制作の記録はこちら
 
東京女子医科大学病院 小児病棟ヒーリング・アートプロジェクトより
 
短期大学 美術コース1年 絵画 学生

『ヒーリングアートに参加して』

参加の動機は、入学前から学校の大学案内等を見て、女子美はおもしろいプロジェクトをやっているなと思っていてとても興味を持っていた。病院に飾られる絵の制作などは、このような機会でもないとめったに出来ない事ではないかと参加を決めた。東京女子医科大学病院と松本歯科大学病院に参加した。

グループによる原画検討会では、普段の制作では得られない皆で意見を出し合い作り上げていくと言う体験ができた。東京女子医大の原画では多くの学生が原画を出し、病院関係者の方々の投票で、たまたま自分の絵が原画に選ばれた。

大きいパネルに描くとすると、色がきつすぎたり、生きているくじら自身に木や草が生えているのは不気味だという意見が出たりした。楽しそうな世界をと考えたのですが、どちらかと言うと子どもの視点のみで考えすぎてしまっていた。子どもだけでは無く大人の方や病院の方などいろいろな方に見られるというところまで頭が回っていなかったように思い、病院という場所に飾るという事をもっと意識しなくてはならなかったと思った。また色も原画用の小さなサイズで考えてしまい、壁画になったときにどのようなイメージに変わるかを考えながら制作しなければならない事を学んだ。

それぞれの校地で描いていたが、杉並と相模原両チームの学生が、夏休み後半、広い相模原キャンパスで、大勢で制作をした事も新鮮だった。ひとつの作品をグループで制作するというのは、上の学年の方からいろいろとアドバイスをいただいたり、教えてもらえることが沢山あり、学べることが良かったと思う。病院の白い壁は清潔感はあるが、たしかにここにずっといると寂しくなってしまいそうな感じがしてきそうに思った。

完成した大きなクジラの絵『なかよし』は明るくてそれでいて落着いていて、皆のエネルギーが溢れていて素晴らしい出来上がりと思う。ヒーリング・アートプロジェクトにより、色々なことが体験できたので参加できて本当によかったと思う。病院とはきっと不安になる要素が多い場所です。でも、皆で作ったヒーリングアートが、少しでも患者さんたちの心を癒すことができるのならとても嬉しいと思う。今回の制作を通じて、絵には人の心を癒すことができるとても大きな力があるのだなと思った。自分自身誰かの役に立つ絵に初めて触れ、「ヒーリング」ということ自体に大きな関心を持ち始めた。(制作の記録はこちら