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Project A 紙プロジェクト_01
活動報告20112010200920082009

実施期間:平成2年4月〜継続中
参加学生:絵画学科、デザイン学科
担当教員:美術学科 馬場章
場所:本学相模原キャンパス、女子美術大学附属中学校、弥栄小学校

■プロジェクトの概要
本プロジェクトは「紙漉き」を通して紙について学習することを目的に、「紙の歴史」「身近な植物繊維から紙を作る」「紙漉きに関する指導法」の項目からなっています。
近代、工業化による大量生産・大量消費社会へ発展し、画材や絵画の支持体も工業的に生産されるようになり、学生たちが素材を探求する機会が減ってきているように感じられます。本プロジェクトでは、専門教育機関ならではの素材の研究に取組み、工業化でみすごされてきた「素材」の力を学生たちが再認識することで、表現活動の広がりにつなげてゆけることを目的としています。紙素材の探求を、「基礎知識」「素材実験」「簡易な製造法の開発」「学生の技術力向上」「普及(体験学習)と展開」という5段階で展開しました。さらに習得した学びを活かし、学生は地域社会とのワークショップなどを通じて、主体的に他者へ発信・提供しました。

■成果
1. 紙を漉いてカードを作る
日時:2010年8月23日・24日
場所:女子美術大学付属中学校 3号館1階
参加者:中学生6名
ティーチングアシスタント:大学院生2名
【内容】
女子美術大学付属中学校で和紙と洋紙のカードを漉き、その湿紙に色付きのパルプで絵を描きました。
コットン原料は、大学の設備でパルプ化して中学校に搬入しました。短繊維のコットンだけでは弱い紙になるため、少量の楮繊維を混ぜて紙の強度を増しました。1回で8枚の葉書大の紙が漉ける枠を使い、溜め漉きでカードを漉きましたが、中学生には枠にすくった水が重いため、手伝いが必要でした。
その後、漉いた紙を脱水機の上にひいた厚手の布の上に伏せて脱水します。その布ごと机に運び絵を描きました。普通は、乾燥した紙に絵具で絵を描きますが、今回は絵具を紙に定着させるために糊分(固着剤)として水彩はアラビアゴム、日本画の顔料はニカワ(油彩はリンシードオイル)などを用いています。その糊分が乾燥して固化することで顔料が紙の表面に固着します。
色パルプは、水に紙パルプと顔料を混在させ、紙漉きに用いるネリを加えることで、水にネリの成分が溶け込み、顔料は繊維の方に吸着し、パルプに色が着きます。色材は乾燥する時に紙パルプと基盤の紙が結合し、顔料をくわえ込むことで定着します。そのためにパルプを盛り上げたり、水溶きして薄く流しても展色(*注)することができます。
あわせて、楮和紙と封筒の紙を漉きアクリル板に貼って乾燥しました。
(注)展色:「色を展(のば)し定着する」こと

【結果】
コットン紙と和紙の質の違いは理解できた様子でした。むしろ色パルプで絵を描くことの方に強い興味を示し夢中になっていました。絵の具で絵を描く場合、どのように描くかが興味の対象となりますが、この紙パルプは細やかな表現には適しておらず、盛り上げの効果や滲みといった偶然性に特徴があり、遊び感覚で描くことができます。失敗すればまた紙を漉くことから始めればよいため、大胆にトライできることができます。そのことで生徒達は気楽に挑戦できたようです。

2. 栽培した植物(トウモロコシ)で葉書を漉く
日時:2010年11月14日
場所:弥栄小学校
参加人数:15名
指導員:大学院生2名
【内容】
相模原市立弥栄小学校では、地域在住の講師を学校に招き、児童に学校の授業では行えない内容の講座を開いています。
この講座では、児童たちが小学校の校庭で育てたトウモロコシの茎が紙になることを体験。農業廃棄物になってしまう素材も植物であれば紙にすることができることを知ることができました。同時に普通の紙原料としてコットンの紙も漉き、その違いについて学習しました。
まず原料のトウモロコシを大学に送ってもらい、節の部分をカットして、苛性ソーダで2時間程煮た後でよく水洗し、歯車型ビーターで叩解してパルプ化しました。トウモロコシだけでは弱い紙になるため30%の楮繊維を加えたものをあらかじめ用意しました。
当日は、小学校の校庭に漉き舟を二台セットして、用意したコットンとトウモロコシの原料を使って、ともに溜め漉きで紙を漉きました。

【結果】
児童は、普通の白い紙よりもトウモロコシの特徴ある素材感に強い興味を示していました。
最初は、学生と一緒に漉きましたが、ひと通り体験すると、2枚目からはひとりで漉くようになり、遊び感覚で紙漉きを楽しんでいました。
最後には、漉いた後の原料の撹拌も自発的に行うようになりました。

3. 徳島アワガミファクトリーと連携
2009年に雁皮と楮原料の混合紙を試作したものを日本画研究室と版画研究室で制作に使い、その実践データをもとにさらに試作を重ねました。
12月に最終の試作品が完成し、期待以上に良い結果を得ました。版画の場合には、紙の地合いやインク適正、紙色ともによいものとなりました。今後製品化することになり、常時手に入るとのことです。

4. 地域活動との連携
紙プロジェクトでは、紙素材に関する様々なデータと経験による知識および実践例を、他のプロジェクトや活動団体に提供することで、一層の広がりと充実を目指しています。
東京都台東区では地域にある古い民家を人が住むことで保存管理するプロジェクトを推進しています。若い人達が、それぞれの専門分野の知識と経験を生かし、ボランティアで参加しています。わたしたちはその活動に技術と機材を提供し、庭に生えている竹を原料として紙を漉き、社会から消えつつある活版印刷によってカードを作成し、技術を伝承するプロジェクトに協力しました。
その他にも、wataken(にこぷん)の活動や、神奈川県の湘南台で活動する地域NPO団体と連携した親子の紙漉きにも協力しています。

1 - 紙パルプに使う顔料(水彩絵の具の顔料) 2 - 紙パルプを作る 3 - 試し描き 4 - 容器を使って描く 5 - 紙パルプで描く 6 - 滲みが面白い 7 - そろそろ完成 8 - コットンの用紙を漉く 9 - 脱水とプレス作業 10 - 和紙を漉く、楮繊維 11 - 和紙を漉く 12 - アクリル板に貼って乾燥 13 - 紙を乾燥し、その後で滲み止めする 14 - 弥栄小学校、トウモロコシ紙漉体験 15 - ひとりで漉いてみる 16 - たくさん溜めて紙を厚く漉く 17 - 原料をかき混ぜる 18 - 紙の乾燥
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